Seminar on cultural phylogenetics and cultural evolution

白眉センター&CAPE共催セミナー:「文化系統学・文化進化研究の現在―『文化系統学への招待』合評会」
July 28th, Kyoto University

Abstracts:

  • Sean Lee「言語系統進化の模様と仕組み」

    生物と言語はどちらも「変化を伴う継承:Descent with modification」という過程を通じて進化する。それ故両者はどちらも時とともに、それぞれの進化の歴史を刻み込んだ「系統」を形成するようになる。発表者はこの現象に着目し、これまで言語が分岐しながら進化する過程を統計手法で推定してその意味を考察する研究を行ってきた。本セミナーでは、この言語系統進化という現象の中身を、「パターン研究」と「プロセス研究」という2軸から捉え、日本語族とアイヌ語などの例を挙げながら現在まで明らかにすることが出来た知見を述べる。

  • 志田泰盛「多書体・継続型混交を許容する文献系統の推定に向けて」

    本発表では、地域・時代毎に多様な書体(Malayalam, Telugu等)に筆写され、しかも継続型混交(successive contamination)の可能性を伴って伝承されたインド古典文献の系統分析に向けた方法論を検討する。
    PAUPやSplitsTree4等の系統解析ツールが公開されたことを受け、インド学チベット学の分野でもその有効性を検証する研究が発表されている。一方で、写本の親子関係の方向の特定のためには、文字の欠落・媒体の欠損・字形の類似性など特異的箇所に焦点を絞った定性的分析が依然として有効であるものの、特定箇所の系統推定結果を文献全体へ適用することの妥当性については、写本間の類似性の平均ではなくその安定度にも着目する必要があるだろう。その点では心電図的解析方法の有効性が見込まれる。
    また、複数の書体に伝承された文献の翻刻と分析に際しては、書体毎に特徴的な誤写のパターンを勘案する必要がある他、各書体の時代毎にも異なる字体の習得もボトルネックとなっており、この点ではSMART-GSという翻刻支援ソフトの活用が期待される。

  • 有田隆也「言語進化の基本的問題を考えるための2つの計算論的モデル」

    コミュニケーションには同等な相手が必要という意味での正の頻度依存選択が内在する.その一方で,コミュニケーションが方向性選択によって進化することが可能であるならば,それはいかに可能かという言語進化の基本的問題をとりあげる.具体的には,学習(表現型可塑性)の進化に対する影響を手がかりとした2つの計算論的モデルを用いて議論する.第一のミニマルなモデルでは,言語的形質の適応度貢献を類似性と適応性の2要因に分離して定量化した上で両選択に基づく進化の可能性を考える.遺伝子と言語の共進化を明示的に扱う第二のモデルでは,言語進化での生物進化と文化進化の両側面の様相の移り変わりを調べることができる.実験で得られた言語進化シナリオについて述べるとともに,言語進化の履歴を調べることによって構成できる言語系統樹についても言及する.

  • 田村光平「文化の「オミクス」研究へ向けて」

    これまでの文化進化研究は,実証研究者による文化現象に関する知見の蓄積と,理論研究者による数理モデルの構築を両輪として進んできた.しかしながら,こうした研究には,理論とデータの乖離や,個々の文化形質に注目しすぎてしまうことで一般化が行なわれないという問題があった.近年,生物学の他の分野と並行して,文化研究でも大規模なデータを利用した「オミクス」的な研究が始まりつつあり,前述した問題点を解決するとともに,網羅的解析や重層的な比較による進展が期待されている.本発表では,人類学周辺領域で蓄積されてきたデータを用いて現在私が取り組んでいる「オミクス」的研究について紹介するとともに,将来的な発展の方向性について議論する.